1998年アメリカの学術専門誌APHASIOLOGYにカナダのオーラ・ケーガンという言語病理学者が失語症の人のための会話パートナーの養成を行っているという論文を発表しました。この考え方に注目した地域ST連絡会の言語聴覚士数名が、カナダのトロントにあるケーガン論文の対象施設、パットアラトー失語症センターを見学し、会話パートナーの活躍ぶりに感銘を受け、日本でもそのような人々を養成したいと考えるに至りました。そこで帰国後、地域ST連絡会で日本でも会話パートナーの養成を始めよう、と呼びかけたところ、20人の言語聴覚士が結集し、失語症会話パートナー養成部会(和音の前身)が発足しました。ケーガンの考え方をもとに日本の実状に合った養成方法を検討し、テキストを作成しました。そして2000(平成12年)10月に第1回「失語症会話パートナー養成講座」を開講し、以後毎年1回開講しています。
「失語症会話パートナー」とは、失語症の人の思いに寄り添い、そのかかえる悩みや生活
の不便さを理解し、失語症についての正しい知識と適切な会話技術を用いて、失語症の
人の不自由なコミュニケーションを補いながら会話ができる人を言います。失語症の人
と社会との橋渡しとなる支援をします。(改訂「失語症の人と話そう」より抜粋)
◇会話の相手
◇会話の橋渡し
◇わかりやすく書いてサポート
◇趣味や社会活動へ参加を支援
◇買い物や病院、役所への同行サポート
◇社会への啓発
活動している人の声
・失語症友の会
・会話サロン(新宿・要町)
・自主グループ
・個人宅
活動内容
東村山にある失語症友の会に、月二回2時間程度会話パートナーとしてお手伝いに行っています。
この友の会は失語症者10名、家族5名、ST3名、伴奏者1名、会話パートナー3名で活動しております。(全員が揃う事はなかなかありませんが・・・)
毎回STの先生が進行役を引き受けてくださり、私たち会話パートナーは失語症者の皆さんが近況を報告したり、歌やゲーム活動の時に、お話しの補助や板書をしたり、毎年参加している「失語症者のつどいイン首都圏」に向けての劇の練習や発表の際に傍でサポートをしています。
またお花見、1泊2日の旅行、忘年会、新年会、等の懇親会等にも参加して、飲んだり食べたりカラオケで歌ったり一緒に楽しんでいます。
楽しかったこと
先日の活動は「片手でも出来るお料理に挑戦」でした。
ご飯と野菜等材料を用意し、皆で「おにぎり」と「お漬物」作りをしました。
病気になって以来お料理をした事のないと言うMさん(女性)も上手に片手で「おにぎり」を握り, のりも巻き、完成。ご自分で作った「おにぎり」を美味しそうに食べていました。またWさん(男性)は麻痺の右手を添えながら左手で上手にキャベツをちぎり、キュウリもスライサーで薄く切り(手を切るのではないかと周りはヒヤヒヤでしたが・・・)見事に「お漬物」を作りました。
ワイワイ!ガヤガヤ!皆さん失語症者と思えないくらい、お料理しながらお喋りが何時もよりスムーズに出た感じでした。
苦労した事
「全国失語症友の会東京支部の総会」に会長の代理として始めて出席されるNさんHさんに同行したときは、私自身も案内役は初めてだったので、とても緊張しました。
待ち合わせの時間と場所を書いたメモ作成し、お渡したもののはたして待ち合わせ場所で合えるか?心配で、約束の時間よりかなり早め待ち合わせ場所に行くと、既にHさんがいらしていてビックリ。電車に乗り途中の駅で下車してNさんと合流し、さらに電車に乗り、バスを乗り継ぎやっと会場の最寄りの駅に到着。駅から徒歩10分との案内だったので気楽に考え歩いて行く事にしたのですが、目的の会場までは急な坂道が続き、右足に麻痺のあるHさんは坂道を歩くのに一苦労。5~6歩程歩いては休憩を繰り返し、顔からは次第に笑顔が消えてしまいました。
私は「大丈夫ですか?ゆっくり行きましょう!」としか声がかけられず、何とか休み休みしながら目的地に着いたときはHさんもNさんも私もホットしました。事前の調査が足らなかったと反省しました。
メッセージ
会話パートナーとして3年経ちましたが、月2回程度の活動ですので、講習で習った事も実際の活動の時にはすっかり忘れているのが現実です。
会話パートナーの、知識、意識、のモチベーションを維持するのはなかなか難しいですが、和音が開催してくださる「フォローアップ講座」に参加させて頂くと、活動されている会話パートナーさんの生の声が聴け、忘れていた事の再認識や新しい情報を知る事が出来とても勉強になります。
また講座の前に先輩の会話パートナーさんと一緒にお昼を食べながらのお喋りは、講義では聴けないようなことも伺え、とても参考になります。
情報交換の場としてお勧めです。
<活動内容>
有楽町線要町駅近くの和音事務所で、第2、第4木曜日の午後1時半から3時まで、中~軽等度の失語症の男性6人(40代から70代)の方が会話を楽しむ「要町サロン」のお手伝いをしています。
会話パートナーは、毎回2人から3人。一人がホワイトボードの横に立ち、会話の進行役を務めながらポイントを板書していきます。他の会話パートナーは、書いて理解を助ける必要がある方の隣に座ってポイントを紙に書いて手助けします。
会話のテーマは、話題のニュースや参加者の趣味の話など。最初は会話パートナーがきっかけを作りますが、後は皆さんの話によってあちこちに流れが変わります。それが会話サロンの醍醐味です。
会話の手助けに、会話パートナーが新聞や雑誌、写真集などを持ってきたり、事務所にある地図、歌詞が書かれた大きな紙、リソース手帳などを使うこともあります。またSTが一名いつもサポート待機でいて下さり、分からない時はパソコンで検索して下さるのも心強いです。
<活動していて楽しかったこと、嬉しかったこと>
野球や相撲、競馬などの趣味の話で盛り上がり、笑い声が起こり、皆さん言いたいことがそれなりに言えて、帰りに「今日は楽しかった」と言って下さった時は、とても嬉しいです。
ほとんど言葉の出ない方でもニコニコして会話を楽しんでいたり、時には自ら参加しようとする様子が見られたりする時も嬉しいです。
特に最近は、会話パートナーが話を向けなくても、お互いに質問したり、冗談を言ったり、それに答えたり、失語症の方同士で会話する光景が見られるようになったのが、何より嬉しいです。
<苦労したこと>
なかなか言葉が出て来ない時、その話題が会話パートナーのあまり知らない分野だと、それを探し出す質問の絞り込みが難しくて苦労します。プロ野球の話題で、ほとんど言葉の出ない方があるベテラン選手のファンだということは分かったのですが、その選手の出身高校を言いたかったときには、出身高校のことまで知っていてそれを言いたいのだということ自体に考えが及ばす四苦八苦。会員の皆さんからお知恵を借りたり、パソコンや地図を使ってどうにか分かった時には、お互いニッコリしました。
<会話パートナーになりたい人へのメッセージ>
自分の言いたいことが相手に伝わり、相手の言うことが理解できる―それが当たり前と思って過ごしていた生活が大きく変化してしまった失語症の方のお気持ちはいったいどんなに大変だろうか。
それを思うと、会話パートナーの働きはとても意義あることだと思います。
実際に失語症の方と会話していて、なかなか言いたいことが分からず色々なやりとりの後で分かったとき、失語症の方のにっこりした嬉しそうなお顔を見ると、こちらも少しはお役に立てたかと、とても嬉しくなります。そして、ひとの思いというのは、言葉だけでなく、視線や態度、さまざまなことから伝わってくる、そのひとの人生に裏打ちされた貴いものということを知らされます。
会話パートナーは、とても意義深く、またやり甲斐のある活動だと思います。
和音の失語症会話パートナー養成講座第7期卒業生のIです。都内の施設の言語訓練グループで、STより養成講座の実習を受け、卒業後そのまま同じ所で、失語症の方達の自主グループをお手伝いしています。始めてから約5年になります。
活動は二つあります。一つは、毎月第三金曜日の午前中に、「トランプの会」と称して大貧民というトランプゲームを中心に楽しんでいます。メンバーは約十名、会話パートナー二名で、失語症の方の他に身体障碍者の方も希望されて入会しています。トランプばかりでもリハビリにならないので、最初の三十分は「会話タイム」を設けて、最近の出来事などを気楽に話し合うようにしています。
もう一つは、毎月第二金曜日の午後、言語訓練が終った方々中心の「花の会」という活動をしています。名称も活動内容も皆メンバー中心で決めました。最近はトランプが多いですが、クイズを出したり、お花見や食事会を企画したりしています。こちらは会話パートナー四人が参加しています。
これらの活動では、なるべくサロンに居るようなくつろいだ雰囲気を味わってもらおうと思い、バックグラウンド音楽をいつも流すようにしています。また、珈琲やジュースなども自由に飲めるように用意しています。
メンバー同士和気藹々と仲良くやっているのですが、訓練終了後は送迎がなくなる為、自分ひとりで会場に来られなくなった方が、ひとりふたりと抜けていくのが寂しく思います。
このような活動は、永く続けることが大事だと思いますので、肩肘張らずゆるゆるとやるように心掛けています。
失語症の方々は、皆それぞれ障碍の出る前は、社会の中で重要な地位を占め責任ある仕事をばりばりこなしてきた人たちばかりです。
現在、自分のことが自分で思うようにならない環境は、歯がゆいこといかばかりかと察します。そんなメンバーの方々とコミュニケーションする際も、できるだけ自然体で普通に接するようにしています。
時に、会話が通じない時は、さまざまなツールを使って、出来るだけ理解しようとします。たとえどんなに些細に見えることでも、正確に把握しようとしています。
時間をかけてやっと話が通じ、互いに理解しあえた後の、メンバーの方の笑顔ほど美しいものはありません。
虹立つやこころとこころ通ひ合ひ
1) 活動内容
月に2回、ご家族と同居されている90歳の男性のご自宅に伺い、1時間程お話しています。話題を前もって決める事はしないで、その時の様子で、お話します。趣味の事、家族の事、ニュース、お若い頃の事、など様々な話題が出ます。高校野球を一緒にテレビ観戦したり、雑談で終ったりする事もあります。
2) 楽しかった事(嬉しかった事)
毎回、どんな話題が出るかしらと思いながら、新聞記事や写真などを用意します。
その日の話題の中で準備したものが役立つ時はとても嬉しく思います。でも、思
わぬ方向に話題が進んだり、予想外の質問が出たりすると、準備不足で残念!という事もしばしばです。そういう場合は次回の宿題として、次の時までに調べておきます。
3)メッセージ
私は「和音」の養成講座を2002年に終了してから、近くのグループのボランティアを現在まで続けています。グループの活動では歌を歌ったり、ニュースについて話したり、時には外出をしたりしていますが、時間が制約されるので、なかなか一人の方とゆっくりお話する事が出来ずに残念な思いをする事があります。そんな時に訪問のお話を頂きました。1対1でお話するのは勇気のいることですが、「和音」の場合は、希望なさる方と会話パートナーの相性、また訪問できる距離か、などを考え、必ず、言語聴覚士が前もってお宅に伺って決めています。失語症の方にとっても、会話パートナーにとっても、興味や趣味の合う者同士お話するのは楽しいものです。
その為にも一人でも多くの方が会話パートナーになって下さるといいと思っています。